■ 手形取引の処理(一) ■

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■ 手形って何? ■

 先ほどは小切手について学びました。それでは今度は手形について学習していきましょう。そもそも手形(てがた)ってなんでしょうか?実は手形も小切手と同様に通貨の代わりとなる証券です。

 それでは、手形も小切手と同じく現金として取り扱うのかというと答えはノーです。えっ?それでは手形と小切手は何が違うのでしょうか。

 小切手は銀行などの金融機関に持ち込んで換金を依頼すると即座に応じてくれる一覧払(いちらんばらい)的な性格を有する証券です。ところが受け取った手形を、金融機関に換金依頼しても条件が付きます。そう、手形には支払期日というものが存在するのです。この支払期日が到来しないと換金できない仕組みになっているのです。

 このような性格を有しているため、専門用語で約束手形(やくそくてがた)と呼ばれています。簿記上は現金として取り扱わずに受取手形(うけとりてがた)、支払手形(しはらいてがた)と別の勘定に区別して表示する事になっています。

■ 受取手形と支払手形 ■

 それでは簿記上の手形取引を見ていきましょう。まずは受取手形(うけとりてがた)及び支払手形(しはらいてがた)について学習していきます。

 問題を解く上で約束手形には重要な幾つかの要素があります。特に重要な要素は、振出人・受取人・額面金額です。簿記の問題上、手形取引が出てきたときは必ずこの3つの要素を把握するようにして下さい。振出人は手形を振出した人、受取人はその約束手形を受け取る人、そして額面金額は、振出人が支払期日に支払わなければならない義務を負う金額です。逆にいえば受取人が支払期日に受け取る事の出来る権利金額です。

 手形の処理は例題を使って説明していく事にしましょう。

 例題)当社は本日(4月1日)A商店に対して売上げた商品の売上代金としてA商店振出し(支払期日5月31日)の約束手形10万円を受け取った。この場合における当社とA社の仕訳を示しなさい。

 例題をとりあえず読んでください。何を書いているのかサッパリわからないと思います。落ち着いて考えていく事にしましょう。まず当社の仕訳ですが、売上げた商品の対価として約束手形を受け取っています。手形取引なので3つの要素を把握してみましょう。

例題のイラスト

 振出人は誰でしょうか。そう、A商店ですね。受取人は誰ですか。当社ですね。最後に額面金額はいくらでしょう。10万円になるでしょうか。落ち着いて問題文を読めば簡単ですね。最初は時間が掛かると思いますが、落ち着いて理解する事に務めてください。慣れれば早く仕訳が切れるようになります。

 問題文に戻ります。さあ、当社の仕訳を考えてみましょう。

 まずは当社側の仕訳を考えてみましょう。当社は10万円の商品を売上ています。3分法を前提として仕訳を切るのなら貸方(売上)10万円ですね。問題は借方ですが、対価として約束手形をA社から受け取っています。この場合は借方に受取手形という資産項目の勘定を使います。ゆえに下記のような仕訳になります。

 (受取手形)100,000 (売 上)100,000

 次にA社側の仕訳を考えてみましょう。

 A社では、逆に当社から商品を仕入れています。3分法を前提として仕訳を切るのなら借方(仕入)10万円ですね。それでは貸方はどうなるのでしょうか。仕入れた商品の対価として約束手形を振り出しています。この場合は貸方に支払手形という負債項目の勘定を使います。ゆえに下記のような仕訳になります。

 (仕 入)100,000 (支払手形)100,000

 それでは最後に両社の勘定記入を簡単にイラストで触れておきます。

例題の勘定記入

■ 為替手形 ■

 続いて為替手形について見ていく事にしましょう。為替手形(かわせてがた)とは一体どんな手形なのでしょうか?先ほど見てきました約束手形は振出人と受取人の2者間取引です。ところが為替手形は、原則として3者間取引となります。非常に煩雑となり苦手にしている受験生は多いのでしっかり学習しましょう。
 為替手形では、約束手形でお話した3つの要素の他にもうひとつ引受人(ひきうけにん)という要素が加わります。引受人とは為替手形の額面金額を、記載されている支払期日に支払う義務を引き受けた、つまり約束手形を振り出したのと同様の義務を背負う事になります(負債の増加)。それでは為替手形の振出人は一体なんだろう?と思われるかもしれませんが、振出人は単に手形を作成するだけで直接的に義務を背負う事もなければ権利が発生するわけでもありません。

 この辺の話は難しいので、イラストを使って説明したいと思います。その前に為替手形について簡単に説明したいと思います。例えば当社がA社から商品を仕入れたと仮定します。するとその対価として現金を支払うなり約束手形を振り出すなり何らかの支払義務が生じますよね。それと同時に当社は、B社にA社から仕入れた商品と同額の売掛債権を有していたとします。B社に対する売掛金は将来当社に支払われるものです。そこで当社は知恵を絞って何か合理的な方法がないか考えます。

 「B社が売掛金を当社に払わずに直接A社に支払ってくれたらなぁ。」

 なるほど、なるほど、これは合理的ですね。それを具体的に実現させるのが為替手形なのです。つまり、B社に対する売掛金を放棄する代わりにB社にA社に対する仕入れ代金を支払って貰おうとするわけですね。具体的な例題をイラストで説明します。

為替手形の図解

 上のイラストを見てください。一緒に仕訳を考えてみましょう。とりあえず当社の仕訳を考えてみます。当社は、A社から商品を仕入れているので借方(仕入)?円となります。問題は貸方ですが、B社に対して有している売掛金を放棄する代わりにA社にその金額を支払うように依頼します(引受け依頼)。B社が引き受けてくれると、

 (仕 入)×× (売掛金)××

 上記のような仕訳になります。当社は手形を振り出していますが、受取手形勘定も支払手形勘定も生じません。実質的な意味合いを理解できれば、当社は手形代金を受け取る訳ではなく、手形代金を支払わなければならない義務も生じませんよね。それでもこの仕訳を理解するのは、簿記初心者には非常に厳しいかもしれません。分からない時は飛ばして進めてください。

 それではA社側の仕訳を考えてみましょう。A社は当社に商品を売上げているので、貸方(売上)?円となります。問題は借方ですが、対価として当社から為替手形を受け取っているので受取手形勘定の増加となります。つまり将来手形代金を受け取る権利が生じる事になる訳です。しかし手形代金を受け取るのは当社からではありません。当社は振出人であって支払人(引受人)ではないからです。

 (受取手形)×× (売 上)××

 えっ?それでは一体誰がこの手形の代金を支払うのですか。それはこの商品売買に一切関わっていないB社です。それでは、B社側の仕訳を考えてみましょう。B社は当社からA社に対して支払期日に額面金額の代金を支払ってくれないかという依頼(引受け依頼)を承諾したので、A社に対して手形を支払う義務が生じた訳です。それではどうしてB社はそんな事を承諾したのでしょうか。

 もちろんタダでそんな条件を飲むはずがありません。代わりに当社に対する買掛金(つまり当社がB社に有する売掛金)を免除してもらうからです。結局B社は負債項目である買掛金が同じく負債項目である支払手形に振り代わっただけになるのです。

 (買掛金)×× (支払手形)××

 各社の仕訳が上記の説明から理解できるのならば、為替手形は卒業したといっても良いでしょう。為替手形は簿記検定では重要項目で、非常に頻繁に出てきます。しっかりマスターして欲しいと思います。


 ■ 総仕上げ例題 ■

 それでは、もう一つ例題です。当社は岐阜商店に対して支払わなければならない買掛金5万円について、当社が為替手形を振り出し、当社が売掛金を有している岡山産業の引受けを得て岐阜商店に手渡した。この場合の当社の仕訳を示しなさい。

 検定試験ではこのパターンが多いです。落ち着いて考えると解答できるはずです。当社は手形を振り出していますが、支払義務はありません。手形の支払義務は引き受けた岡山産業です。当社は買掛金を支払うので借方に買掛金5万円(負債の減少)になりますが、貸方は一体何になるのでしょうか。そう、岡山産業に対する売掛金5万円(資産の減少)になります。

 難しいですが、岡山産業に買掛代金を肩代わりしてもらう代わりに岡山産業に対する売掛金を免除する形になっていることをご確認ください。

 (買掛金)50,000 (売掛金)50,000


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