さて、それでは有価証券を売却したときの処理について見ていきます。一番最初にお話したように、財テクで有価証券を運用して儲けようと考えていれば、当然どこかで売却して利益を得ようとします。反対に見込みに反して売却によって損することも当然あり得ます。目的は色々ですが、ここでは短期的な売買を前提にした有価証券についてお話していきます。
有価証券を売却した場合には、有価証券は資産項目ですから仕訳上、資産の減少として貸方に有価証券がくることがイメージ出来ると思います。そして有価証券を売却することによって得られるのは、現金や当座預金などの現金同等物であり、資産項目の増加として借方にくることがイメージ出来ると思います。そこで売却差額が発生したときは、収益又は費用として把握することになります。イメージとしては下記の通りになります。
● 売却によって得した場合の仕訳
(現金など)××× (有価証券)××× (売却益) ×××
● 売却によって損した場合の仕訳
(現金など)××× (有価証券)××× (売却損) ×××
イメージ出来ましたか?正確には売却によって得をした場合には差額は収益勘定である「有価証券売却益」勘定で処理し、反対に損した場合には費用勘定である「有価証券売却損」勘定で処理します。
さて、有価証券を売却することによって問題になるのが、有価証券の売却原価の計算なのです。保有している有価証券を全て売却した場合には帳簿価額を売却原価として計算すればいいのですが、例えば保有しているうちの一部だけを売却した場合などは、原価をどうやって計算するのか考える必要があります。
具体例を挙げます。最初にA株式を1株10万円で購入したとします。後日同じA株式を1株100万円で購入したと仮定します。現在2株保有していますが、更に後日に最初に購入したA株式を90万円で売却したとしましょう。普通で考えたら売却原価は当然10万円ですから80万円得した計算になります。逆に後から購入した株式を売却した場合には原価が100万円ですから10万円損した計算になります。このように1株ごとに個別管理出来れば正確な計算は出来るのですが、実際に多くの有価証券を日々売買してるととても手間が掛かって実務的ではありません。また、内容的には全く同じ株式ですから、そこまで細かく管理する必要もありませんね。この例では金額が極端でしたが、大体でイメージ出来ましたでしょうか。
そこで、出来るだけ簡素化した計算方法が先ほどお話した総平均法や移動平均法になるのです。これらの計算方法は有価証券を売却した際の売上原価を計算する方法だったのです。ですから、厳密には単価計算は売却時に計算するものです。ただ、試験で圧倒的に出題される移動平均法については取得ごとに単価計算をしていた方がよいと思います。
最後に例題を解いてみましょう。
例題3)下記の番号順に有価証券に関する仕訳を行いなさい。有価証券の売却原価の計算は移動平均法により計算すること。
1.H社株式を1株800円で2,000株購入し、付随費用1万円と一緒に現金で支払った。
2.1のうちH社株式を1株900円で1,000株売却し、当座預金とした。
3.H社株式を1株850円で3,000株を追加購入し、付随費用15,000円と一緒に現金で支払った。
4.現在保有しているH株式のうち1株830円で1,000株売却し、当座預金とした。
1及び3が購入取引、2及び4が売却取引になります。全て同一銘柄株式なので、追加購入の時点で1株当たりの単価が変わります。下記に解答仕訳を示しておきます。いきなりは難しいかもしれませんが、解答を見ながらイメージして下さい。
1.(有価証券) 1,610,000 |
(現 金) 1,610,000 |
2.(当座預金) 900,000 |
(有価証券) 805,000 |
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(有価証券売却益)95,000 |
3.(有価証券) 2,565,000 |
(現 金) 2,565,000 |
4.(当座預金) 830,000 |
(有価証券) 842,500 |
(有価証券売却損) 12,500 |
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いかがでしょうか。単価計算出来ましたか?2.では売却益が出て4.では売却損が発生します。
1.所有有価証券 2,000株 帳簿価額 805,000円 1株単価 1,610,000÷2,000株=805円
2.所有有価証券 2,000株-1,000株=1,000株 売却原価 805円×1,000株=805,000円 帳簿価額 1,610,000円-805,000円=805,000円
3.所有有価証券 1,000株+3,000株=4,000株 帳簿価額 805,000+2,565,000円=3,370,000円 1株単価 3,370,000÷4,000株=842.5円
4.所有有価証券 4,000株-1,000株=3,000株 売却原価 842.5円×1,000株=842,500円 帳簿価額 3,370,000円-842,500円=2,527,500円
お気づきになられたかもしれませんが、有価証券の売買損益の計算は分記法の考え方で処理してます。
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