商品売買と三分法
さて、いよいよ商品売買の基本的な処理を学んでいきましょう。日商簿記3級では、主に個人商店や中小企業を中心とした商品売買取引が出題されます。つまり小売業・卸売業になります。つまり、どこかから仕入れた商品に利益を上乗せして第三者に売りつけて儲けを出します。八百屋さんや魚屋さんもそうです。比較的イメージしやすいかもしれません。
この商品売買を簿記で処理する方法に三分(割)法と呼ばれる方法があります。日商簿記3級からはこの三分法を前提に解答していくことになります。具体的には繰越商品(くりこししょうひん)、仕入(しいれ)、売上(うりあげ)の3つの勘定科目を使用して計上していくことになります。商品売買は必ず出題されるので、三分法を正しく理解していないと合格は難しくなります。気合を入れてここは進めていきましょう。
商品を仕入れた場合の処理
まずは商品を購入、つまり仕入れた場合の処理を考えてみましょう。商品を仕入れた時点では、商品という資産が増えたのですから資産として計上するのが一般的な感覚だと思います。ところが
三分法では仕入れと同時に仕入(しいれ)勘定と呼ばれる費用科目で計上します。費用は入門編でも触れましたが、儲け(利益)の源である
収益を得るための努力部分です。売り上げた商品に対する努力部分は商品原価になりますから、仕入れた原価そのものなのです。つまり仕入れた商品はそのまま原価(費用)になるものですから、商品という資産項目を増やすのではなく、仕入という費用項目を増やすのです。以前、
当座預金のところでも仕入という勘定については少し触れましたね。覚えていますか?
次に実際に仕入れた際の仕訳を考えてみましょう。仕入、つまり費用科目は借方項目ですから増えれば借方を増加させます。なので商品を買ってくれば仕入勘定の借方を増やすのかな?とイメージ出来ればもうあなたは商品売買をマスターしたも同然です。それでは例題を解いて見ましょう。
何だか問題文の言い回しで聞き慣れない言葉が出てきました。代金は掛とした・・・これは一体どういった取引なのでしょうか。商品売買、つまり商品を買ってきたり売ったりする場合に、その時に現金や小切手でやりとりしないで後日清算してやりとりしましょうという取引です。これは相手を信用して代金を後回しにして商品の授受が行われることから信用取引や掛取引とも呼ばれます。この掛取引は商品売買では当たり前のように出てきますので今のうちに慣れておきましょう。
今回は商品を購入する側なので、買掛金(かいかけきん)という勘定科目を使います。この買掛金は将来仕入れ先に代金をお支払いしなければいけない債務の意味があります。つまり負債項目なので掛で商品を仕入れると買掛金勘定の貸方が増えることになるのです。そして掛代金を返済した場合は、債務の減少となり買掛金勘定の貸方を減らします。
商品を売り上げた場合の処理
次は逆の立場。つまり商品を売り上げた場合の処理を考えてみましょう。先程習った知識をフル導入して、もしかしたら仕入の時と逆に考えればいいのかなと思えればしめたもの。あなたは立派な簿記中級者です。三分法では商品を売り上げた場合には、収益項目である売上(うりあげ)という勘定を使います。収益は貸方項目ですから売上が増えれば売上勘定の貸方が増えます。収益である売上の金額とそれを得るための努力部分である仕入(商品原価)の金額の差額部分が儲けになる利益ってことかな?とイメージ出来ませんか?簿記ではこの売上と仕入の関係は密接に結びついているようですね。
それでは同じように例題を解いてみることにしましょう。今度は商品を売り上げる場合になりますので、売上勘定を使用するのがヒントです。また掛取引になっていることに留意して少し考えてみて下さい。仕入れの時は買掛金という勘定を使いましたが、掛で売り上げた時には売掛金(うりかけきん)という勘定を使います。
いかがでしたか。大体イメージ通りで正解を出せた方も多いのではないでしょうか。この売掛金は将来得意先から回収すべき債権の性質を持っています。つまり資産項目になりますね。商品売買で三分法を学んでいますが、既に新しい科目が4つも登場しました。最初は混乱するかもしれませんが、非常に重要な項目になりますので、売上・仕入・売掛金・買掛金の使い方をしっかりマスターして下さいね。
返品と値引きがあった場合の処理
三分法の基本的な仕入と売上の処理をみていきました。それでは少し応用編になります。商品を売買した場合に何らかの理由で返品や値引きをすることは十分考えられます。例えばみかんと思って買って箱を開けてみればりんごだった?!とか、よく見たら傷が付いていたり腐っていたりした場合にはさすがに正常な物と同じ金額では買う立場としたら納得出来ないでしょう。日商簿記3級では商品売買の返品や値引きについてはかなり出題されています。ここではその返品・値引き処理について学んでいくことにしましょう。
まずは上の例題について解説します。この例題は大阪商店が名古屋商店に商品を掛で(ここ重要です)売り上げていましたが、取引後にその一部が返品となった場合です。留意して欲しいのはこの問題の時点では大阪商店も名古屋商店も既に売上と仕入の仕訳は終わっています。問題文の最後の方に返品分は掛代金から控除すると書かれていました。つまり掛で商品をやりとりしていたことが読み取れますよね。
その後、その商品の一部が返品されたことにより修正が必要となったのでその仕訳を解答として挙げていく必要があります。また、大阪商店は売り上げた側なので返品があった場合は売上返品となり商品が手許に戻ってきます。逆に名古屋商店は仕入れた側なので返品があった場合は仕入返品となり商品を返送することとなります。ここのイメージは大丈夫でしょうか。
それでは解答を見て下さい。この講義の最初の方で学んだ仕入と売上の仕訳の貸借が逆になっています。つまり返品は単純に仕訳を逆にして打ち消しているだけなのです。
つまり最初の売上の際に大阪商店は売上勘定と売掛金勘定が1,500円だったはずです。しかし、1個は返品されてきましたから純粋に売り上げたのは1,350円分になるはずです。つまり150円分を打ち消して帳尻を合わせているわけですよね。
仕入側である名古屋商店についても同じような理屈になります。この帳尻を合わせた1,350円分の仕入又は売上を、それぞれ純仕入高(じゅんしいれだか)、純売上高(じゅんうりあげだか)と呼んでいます。次に値引きの例題を考えてみることにしましょう。
先程の例題とそっくりです。しかし、よく見ると微妙に違うことが分かります。今回の例題では商品に傷が付いていましたが、返品はしないで代金を安くして貰う、つまり値引いて貰うことにしました。仕入れた名古屋商店では先程のように違う商品が届いたらさすがに返品しましたが、今回は許容出来る程度の傷だったのでしょう。安くして貰うことで妥協したようです。そして驚いたことに先程の返品の仕訳と全く同じになっています(金額は偶然でしょうが)。
そう、返品も値引も簿記の処理自体は同じなのです。返品も値引も同じ処理なんだなと思っていただければOKとしましょう。参考までにお話しすると返品と値引はその実体は全然違う取引です。何が違うかお分かりでしょうか。そうです、返品は商品の移動が伴うのに対して値引は商品の移動は伴いません。
返品と値引は仕訳も同じ、勘定残高も同じなので分かりにくいのですが、返品と値引では、最終的に大阪商店も名古屋商店も手許にある商品の数は違うはずです。通常、仕訳帳から総勘定元帳に転記して試算表を作成し決算書類を作成するのですが、商品の明細まではこれだけだと不明です。商品の明細が分からなくても儲けである最終的な利益の金額が変わることはありません。
しかし、商品の残数などの情報は明確に知っておきたいものです。そこで補助的な意味で商品専用の帳簿を用意することがあります。これを商品有高帳(しょうひんありだかちょう)と呼んでいますが、これは後日学習することにします。
商品有高帳は補助元帳と呼ばれ、仕訳帳や総勘定元帳などの主要簿を補完する役割があります。今の段階では理解出来なくても気にしないで下さい。まずは返品と値引の処理をしっかりマスターして下さいね。
諸掛が発生した場合の処理
次に商品売買の際に引取費用や発送費用などの諸掛りが発生した場合の処理についてみていくことにしましょう。商品を仕入れたり販売したりする際にそれに付随して発送運賃などの費用は必然的に発生する性質のものです。このような費用は仕入諸掛(しいれしょがかり)又は売上諸掛(うりあげしょがかり)と呼ばれています。このような場合の仕訳について考えていくことにしましょう。まずは仕入れ側、商品を購入した際に発生する費用の処理について考えてみます。
上記の例題いかがだったでしょうか。商品は3,000円分しか購入していないのに引取運賃を含めた代金を仕入金額として計上していますよね。このように仕入れに伴う運賃などの費用を仕入諸掛費(しいれしょがかりひ)、又は単純に付随費用(ふずいひよう)などと呼んでいます。
これらの仕入れに伴う費用は全て仕入勘定に含めて処理します。どうして引取運賃として計上してはいけないのでしょうか?仕入も確か費用項目でした。引取運賃も同じ費用項目だから分けても良さそうなものです。むしろ分けた方が純粋な商品の本体仕入価格が明示出来て親切のような気もします。
厳密に突き詰めればもちろん違いがあって理由もあるのですが、日商簿記3級を目指されている段階では混乱する元ですからあまり深く考えないで現状ではそういうものだと思って先に進めて下さいね。それでは次は売上側に掛かる付随費用を例題を使って考えてみましょう。
今度は逆です。つまり売上側の処理です。商品を売り上げた際に遠方の得意先に商品を送る際に発送費が発生する場合があります。むしろほとんどの場合は運送屋さんなどに依頼する訳ですから必然的に発生すると言ってもいいでしょう。この発送費を売上側で負担する場合は注意が必要です。
この発送費は当然、売上という収益を得るために必要なものですから費用となります。先程の仕入の際に掛かる引取費用と同じ要領で今度は売上から当方が負担する発送費を差し引くのかな?と考えそうですがそれは間違いです。
この場合、売上は収益項目で発送費は費用項目です。明らかに種類が違いますよね。これを相殺するのはいくらなんでも少し乱暴でしょう。解答のように別建てで計上します。今回はかなりボリュームがありました。それではお約束の腕試し練習仕訳問題にチャレンジしてみましょう。
解答を表示する
少し応用問題となって読み取りが難しいと感じるかもしれませんが、落ち着いて考えてみると今までの知識で解けるはずです。問3は広島商店から仕入れた商品を京都商店へ転売していた当社が、返品を受けて仕入れ先に返送した取引です。日本語の読み取りの問題でもありますね(笑)
間違えた方はこの講義を読み返し、何度も解き直しをして正解するまで頑張ってみて下さい。商品売買の知識、特に三分法の処理はこれから2級、1級を目指す上でも非常に重要度は高い項目ですので、完璧に近いレベルまで習得する必要があります。最初は難しくても落ち着いて考えれば大丈夫。頑張りましょうね。
繰越商品勘定
最後の最後に残った三分法で使う勘定科目の一つ、繰越商品(くりこししょうひん)勘定についてみていきましょう。何となくイメージは出来ると思います。そう、この勘定の残高は前期から繰り越されてきた商品の原価が表示されています。
繰越商品勘定は種明かしをすると資産項目になります。あれれ?確か仕入れた商品の原価は仕入勘定として費用になるのではなかったっけ?そうでしたね。確かに仕入れた商品原価は仕入勘定に費用として計上しました。実は費用として計上するのですが、期末までに売れ残った商品は費用として計上はしないのです。つまり売れないとその商品の原価は永遠に費用とすることは出来ないルールになっています。
それは何故か?儲けの計算を厳密に行いたいからです。売り上げた商品とその売り上げた商品の原価を対比させることによってその商品から生まれる本当の利益を計算するのです。三分法ではとりあえず仕入れた商品は全部売れる前提でいったん費用として計上しますが、決算の時に売れ残った商品は繰越商品に振り替えることになります。つまり費用となるのは仕入原価でも商品原価でもなく、売り上げた商品の原価つまり売上原価が費用になるのです。
冒頭でも述べましたが、商品はその本来的な性質は財産であり資産として計上すべきものです。今は難しいので理解出来なくても全然OKです。その処理は後述する決算の項目で改めて講義します。ここでは繰越商品勘定の中身について、前期から繰り越されてきた商品の原価が計上されているんだなと何となく理解してくれれば良いでしょう。この繰越商品勘定は期中ではほぼ変動することはありません。少なくても日商簿記検定3級の範囲では100%動きません。決算の時に大活躍します。もちろん期末までに仕入れた商品が全部売れてしまった場合は繰り越す商品がありませんから、翌期は繰越商品勘定の残高はありませんよね。