約束手形を裏書きした場合の処理
前回は約束手形について振り出した場合と受け取った場合の処理について見ていきました。今回は更に発展した処理について学びます。その前に良いお知らせがあります。平成28年度以降の日商簿記検定3級及び2級で為替手形が出題されない事になりました。この改正によって手形処理については受験生の負担が大幅に減ったと思います。特に為替手形は苦手項目にされている受験生も多く、処理もややこしいのですが実務上ほとんど使われていない事もあって今後の出題は無くなりました。なので、これから学ぶ裏書手形と割引手形をしっかり学んで身に付けましょう。
まずは裏書手形(うらがきてがた)について見ていきましょう。約束手形は前回学んだように将来(支払期日)手形に記載された金額を振出人、つまり支払人から受け取る事を約束された証券です。この約束手形は裏書きという行為によって第三者に譲渡する事が可能です。裏書きとは一体何でしょうか?
裏書きとは、約束手形を所有している者が第三者に譲渡する際に手形に署名する事を言います。手形の裏面に署名する事から裏書きと読んでいます。八百屋がトマトを仕入れるのに代金はキュウリが余ってるからキュウリで支払うと言っても断られるとは思いますが(笑)、約束手形は支払期日になると現金化されるので買掛金などの支払の決済手段として用いる事は良くあります。
まずは前回の復習も兼ねて下図を見て下さい。
六角商店が林商店に商品を売り上げて、代金の代わりに林商店が振出人(=支払人)となって振り出した約束手形で支払っています。前回の復習になりますのが六角商店と林商店それぞれの仕訳が出来たでしょうか。
次に下図を見て下さい。六角商店はその後、ざっぱ商店よりとてつもなく高い値段のダイコンを仕入れました。どうもボラれてるっぽいです(笑)支払いは林商店から受け取った約束手形があるのでそれで支払う事にしました。林商店から受け取った約束手形はこのように譲渡する事が可能なのです。それぞれの仕訳を考えて見ましょう。
まずはざっぱ商店の仕訳を考えて見ましょう。ざっぱ商店は売上げの対価として約束手形を受け取っているので単純に受取手形(資産)の増加になります。手形は誰が振り出していようが手形を持っている者は満期日になれば記載されている金額を銀行から受け取る事が出来ます。
手形代金を支払うのは振り出した林商店ですが、約束手形は譲渡が出来るので最終的に誰が手形金額を受け取るのかは支払期日にならないと分かりません。いずれにしても約束手形を受け取った者の仕訳ですが、裏書きであろうが何であろうが約束手形を受け取れば借方は受取手形勘定で処理する事になります。問題は六角商店の仕訳だと思います。
六角商店は先に林商店より売上の代金として約束手形を受け取っています。その受け取った約束手形を裏書きしてざっぱ商店に仕入代金として譲渡しています。このような状況を把握出来ましたでしょうか。この場合の六角商店の仕訳は所有していた受取手形を譲渡しているので貸方に受取手形(資産の減少)を記入します。
それではいきなりですが練習問題を解いてみましょう。
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いかがでしたでしょうか。問題文をよく読んでどの部分が裏書譲渡の取引になるのかしっかり把握して下さい。特に問2と問3は複合取引になっていて複雑です。日商簿記検定3級ではこのように複合取引の仕訳が出題されています。当店は約束手形を受け取ってますか?受け取っているのなら資産を増やします。つまり受取手形勘定の増加ですね。逆に受け取った約束手形を裏書譲渡している場合は資産の減少、つまり受取手形の減少になります。手形を振り出している場合との違いを理解して下さいね。
約束手形を割り引きした場合の処理
次はもう一つ大事な論点である約束手形を割り引きした場合の処理について学習していきましょう。約束手形は支払期日にならないと換金、つまり現金化する事は出来ません。しかし、約束手形は掛けと比べて現金化されるまでの期間が長いのが普通なんです。満期日まで気長に待つのもいいのですが、現金があればもっと商品を沢山仕入れてガンガン売って儲けたいところです。もちろん前回学んだ裏書きという方法も一つですが、相手も同じ事を考えているので現金じゃなきゃ嫌だと言い出すかも知れません。やっぱり現金が最強なんですよね。
でも約束手形は金融機関等で買い取って貰える場合もあるのです。つまり満期日を待たずに現金化出来る夢みたいな話です。もちろんタダで買い取ってはくれません。支払期日までの期間に応じた利息や手数料は差し引かれますが、それでも早く現金化出来るメリットはあります。このように一定の手数料を払って手形を現金化する事を手形の割り引きと呼んでいます。
手形を割り引いた時の処理はそれほど難しくはありませんが下図を参考にイメージしてみて下さい。
まず第三者が振り出した約束手形を銀行等に持ち込んで割引き依頼をします。手形の信用度に基づいて手形を割り引くか決めますが、問題無ければ銀行等はその手形を買い取ります。その場合に利息などの割引手数料を差し引いて残額を支払うイメージになります。この割引手数料は手形売却損(てがたばいきゃくそん)という勘定科目で処理します。銀行に買い取って貰ったので売却したと考えています。日商簿記検定では必ず買い取って貰う事を前提に出題しますのであまり細かい事は考えなくても大丈夫です。
簿記検定を受検される方のほとんどは、実際に手形を扱った事が無い人だと思うのでなかなかイメージする事が出来ないと思います。しかし、合格するためにはある程度の割り切りは必要なので理解出来なくても先に進んで問題を解いてみましょう。
それでは早速腕試し問題にチャレンジしてみましょうか。検定試験並に大変難しい問題も含まれています。解けなくて当たり前なので問題文を読んでどんな取引かまずはイメージしてみましょう。
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解けましたでしょうか。問1については解けた方も多いのではないかと思いますが、問2と問3についてはなかなか難しかったのではないでしょうか。今の段階では解けなくても全く問題ありません。簿記検定から難しいとされた為替手形の問題が出題されないとなると、今後の手形問題はこのような応用問題になる事が予想されます。このような問題に対応するには沢山の仕訳問題を解くしか近道はありません。問2の修正問題について軽く解説しておきましょう。
この問2については正しい仕訳がされていない場合の修正仕訳をさせる問題となっています。このような問題を解く際には一番真っ先に本来の正しい仕訳を解答してみて下さい。そして間違った仕訳と比較して何が足りなくて何が余計だったのか比較しましょう。最後にそれらを合算して仕訳を起こします。間違った仕訳の修正問題は実力が伴っていないとなかなか解けませんが、このような問題がスラスラ解けるようになると自信を持って良いと思いますよ。